第
8 回 埼玉県名栗(飯能市)の昔ばなし
『機織淵』
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(3月12日に長七郎さんから頂いたお話を、転載させていただいております。)
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皆様 お早うございます。御機嫌いかがでしょうか、長七郎です。
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昨日は、春うららかな陽気に誘われて、一人で近くの公園ヘ出かけました。
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なんと大きなピンポン玉大の木ノ実?、それとも花のつぼみ??に触れたのです。
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葉っぱの感じでは、おそらく椿かもしれないです。
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それにしても大きな玉にはまったく玉げてしまったですよ(笑う)後日、調べてみようと思っています。
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さて、いつものように昔話をお送りしましょう。
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今回は、埼玉県名栗の民話です。
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それでは今日も、昔話のはじまり、はじまり〜。
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むかしのことだね。
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鍛冶久保(名栗村)に、ひとりの木こりが住んでいたとよ。
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ほら、名郷から鳥首峠に向っていくと、白岩というところがあってよ、そこに沢があるじゃない。
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そこに布渕ちゅう滝がある渕(ふち)がある。そこの渕(ふち)の話だがよ。
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ある日、いつものように鍛冶久保の木こりが、その渕の近くで木を伐っていたんだ。
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ところが、どうしたはずみか、持っていたヨキ(斧)が手もとからとんでしまって、渕の中に落ちてしまったとよ。
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この木こりも、そんなに楽な暮らしをしているわけじゃあねえので、新しくヨキを買うのもてえへんだから、しかたなくヨキを探しに渕にとびこんで、底までへえって行ってみたとよ。
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ところが、木コリはそこで、たまげちまうものをみたんだ。そこには目がさめるような美しいお姫さんがいてよ、機を(はた)織っていた。
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木こりはしばらくロもきけないで、ただ、このお姫さんに見とれていたが、ようやっと、われをとりもどすと、おそるおそる姫さんにたずねてみたとよ。
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「あの、ちよっくらたずねますけどな、このあたりに、わしのヨキが落ちてきなかっただろうかいの」するとお姫さんは、
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「さきほどわたくしが機をおっているとオノが落ちてきて、たいせつな機糸を切ってしまったが、そのオノでしょう」と言ったので、木こりは、
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「これは、すまねえことをしてしも(ま)った。もうしわけねえ、かんべんしてくだせい」とすなおにあやまったと。
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木こりは、お姫さんが持ってきたヨキをみると確かに自分のものなのでかえしてもらったとよ。
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ところで、木こりは、あまりにあたりが不思議に美しく、池の中とは思えねえので、お姫さんに、「もういちど、おたずね申すけど、ここはいったいどこだんべの」と言ったとさ。すると、お姫さんはにっこり笑いなさって、こう言ったと。
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「さぞ驚かれたことでしょう。実は、ここは竜宮なのです」
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木こりはますますたまげちまって、おろおろするばかりだったとよ。しかし、やさしいお姫さんだったので、いつしかすっかり打ちとけて、身の上話などもしてしまい、ゆっくりくつろいだと。
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「ああ、ちよっくらのつもりが、長っぱなしになってしもうた。たいへんおじゃましてしまったの。さ、機(はた)を織りなされや」
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木こりがそう言って、腰をあげ、帰ろうとすると、お姫さんは木こりに、
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「木こりさん、あなたはとても正直なよい方です。もし困ったことがあったら、これをあげますから使ってください」と言って、糸巻を木こりにくれたと。
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そして、もし何か欲しいものがあれば、そのものの名前を書いて、糸巻にそえて、この渕の入口におけば、きっと願いをかなえてあげましょうと言ったとよ。
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木こりはお礼を申しのべて、それをもらって家に帰った。
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それからは、木こりは、もの日にごちそうがいりようになると、それを書いて渕の入口に置くと、美しい椀にもられたごちそうがいっぱい用意されているというふうに、米といえば米を、着物といえば木こりにちょうど合った着物がちゃんととどけられて、とうとう、木こりは村一番の金持ちになってしまったと。
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しかし、村のひとの中にはいままで貧しかった木こりが、きゅうに大金持ちになったので、いろいろ悪く言うものがあらわれてきた。中には、あれはきっとひとさまのものを盗んで、大尽になったにちげえねえ、などという者もいたと。
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こんなうわさは、ときどき木こりの耳にもへえったが、木こりは気にもしねえで、毎日、いつもとかわりなくかせいでいたが、とうとう、ひとの悪ロにがまんできなくなってしまってよ、お姫さんとの約束を破って、村のひとに、今までのことをみんなしゃべっちまった。
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すると村のひとたちは、よってたかって、木こりにその糸巻きをかせとせがんだとよ。
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しかし、木こりがかさないでいると、しまいにとうとう木こりから糸巻きをとりあげちまって、持ってってしまった。
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そして頼みたいほうだい、言いたいほうだいのことを言って、竜宮からいろいろのものを取りよせたとよ。
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さすがのお姫さんも、これにはあきれちまったのか、あまりにも欲ばりすぎた人間どもに、愛想を尽かしてしまったのか、ついには、だれがものを頼んでも、願いをききとどけてやることをしなくなってしまったとさ。
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はなし 町田 憲一郎 おしまい
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■ 長七郎の解説
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この物語によると、名栗にも、浦島太郎に似た昔話が伝えられていたのですね。
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木こりも、陰口には勝てず、内緒にしていたことを話したばっかりに、欲深い村人たちのために全てを失ってしまいました。残念でした。
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ちなみに 名栗は、山林に囲まれた地で、江戸時代には西川材と言われて、江戸幕府でも、その木材を御用たてされていたとのことです。
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また、この地の木材でカヌ−を作って、海外へ輸出していたとの話もありました。(いまでも 名栗湖の近くに工房があります。)
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さて 次回は何処の民話へ……。乞う、ご期待を!!
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■ 一読者の感想
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この昔話を読んで、2つのことを感じます。自然の恵みの豊かさと、見さかいのない人の貪欲の愚かさです。竜宮とお姫さまは、自然が人間に与える恵みの象徴なのかもしれません。例えば砂金のような鉱物資源も、木こりが1人で少しずつ取り出している分には、豊かな富を与えて続けてくれます。しかし皆で我先にと取り尽くせば、あっという間に枯渇してしまいます。
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でもこの昔話で印象的なのは、竜宮のお姫さまは、人の欲張りに愛想をつかしてしまって人に富を与えなくなってしまったとしている点です。竜宮にはまだまだ人を潤す富があるのです。きっと私たちが、一人の利益ではなく皆の利益のために、そして自然との調和をも配慮して自然に働きかける時、自然はいつまでも豊かな富を、私たちに与え続けてくれるのかもしれません。
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